愛知県の中で最大の遊郭が中村区にある中村遊郭(名城園)です。大須にあった旭廓から移転してきた遊里で、大正12(1923)年4月1日に開業したといわれています。
『全国遊廓案内(昭和5年)』によれば、遊客数・遊興金額・一人あたりの遊興金額は日本一とも言われ、全盛を極めた昭和12年当時には、全国の4.5%の娼妓が中村に集中していたようです。敷地面積も32000坪と、吉原を凌ぐ巨大なものでした。
中村遊郭の特徴は、吉原にも見られるような廓独特の区画にあります。下のgoogle mapをみてみると,一目瞭然。(なんかブラタモリっぽいw)赤く塗りつぶされた箇所が遊郭の中心地。その四隅に斜めに伸びる4本の道。
遊郭に入るにはこの4本の道を通らねばならず、かつ四隅に斜めに配置されているために遊郭の中の様子を窺い知ることもできません。同じような趣向は東京の吉原でも見られます。「土手の伊勢屋」のある吉原大門の交差点から吉原のソープ街に行く際、道がクネっているのが確認できるのですが、これも外部から遊郭が直接見えないようにしている工夫です。
話は戻って中村遊郭。2014年当時の様子をみてみます。
大門商店街の入り口にある大門。当時は同じ場所に遊郭の入り口となる大門があったといわれています。(地図①)
ちょっと廃墟ぎみになっている大店の元妓楼。手入れをして別の活かし方があると思うけど、このままだと数年後には解体されるかなと。。(地図②)
蕎麦屋として第三の人生を歩んでいる「伊とう」。旧屋号は「牛若楼」。こうなるとまだ解体の恐れはないですね。(地図③)
「牛若楼」の隣には素晴らしいカフェー建築が。丸窓に青と白のタイルのストライプがかわいいですね。旧屋号は「入船」(地図④)
これは今は現役のソープなのかそうなのかわからないけど、店名は昔からの屋号「金波」を流用してますね。入り口両側のアールにカフェー建築の名残が感じられます。(地図⑤)
遊郭とは関係ないけど、クリーニング屋のイラストがちょっとおませな感じ。(地図⑥)
左半分はカフェー建築、右は遊郭建築という、和洋折衷なハイブリッド遺構。屋号は「福春」。(地図⑦)
現在はデイサービスの施設「松岡健遊館」になっている建物で屋号はたぶん「新金波」。昔ここで遊んだ客が晩年デイサービスとしてここに再び戻ってくる…なんてことがあるのかな(笑)(地図⑧)
「新金波」の隣の「福扇」。痛みはあるけど、緑色のタイルの輝きはまだ健在。(地図⑨)
こちらもデイサービスの施設「松岡健遊館」の別の入り口。当時の屋号は「酒井」。「新金波」と「酒井」という別の建物だったけど、内部で繋げて1つの施設「松岡」にしたのかも。(地図⑩)
そしてこちらは「長寿庵」という、市の都市景観重要建築物に指定されている大店の妓楼。当時の屋号は「千尋」。が、なんと!2014年10月頃に解体されてしまいました。都市景観重要建築物なら、ちゃんと保存せんかーい!(怒)(地図⑪)
この建物で有名な美人画。中村遊郭といえばこの建物と言っても過言ではなく、かなりショック。
こちらも健遊館同様デイサービスとなっている建物。ちょっと前までは「料亭稲本」だったようです。当時の屋号も「稲本」。弁柄色の壁が美しいですね。保存状態も良い感じ。(地図⑫)
遊郭にお決まりの銭湯「寿湯」外観がカフェーちっくですね。(地図⑬)
歩いてみて感じるのは、やはり東京・吉原に匹敵する遊郭の規模。だいぶ遺構が少なくなっているとはいえ、そのほとんどが大店だし、当時は相当栄えていたことが想像できます。「千尋」の解体はショックでしたが、現存する間に見ることができてよかった。。